昇圧スイッチング電源IC (MT3608)

(2018.11.23 作成)

(2022.8.4 更新)

 このページではXI'AN Aerosemi Techの昇圧電源IC MT3608について紹介したいと思います。AliexpressでMT3608と検索するとこのICを用いたDCDCコンバーターモジュールがヒットしますが、このページではIC単体の紹介をしたいと思います。

 ちなみにモジュール状態でも1個30円、ICだと10円以下で購入できるとても安価なICです。

 またSDB628(SHOUDING)やSX1308(Shenzhen Suosemi Tech)という名前でそれぞれの会社から出ているようですが、データシートを見る限り同じもののようです。

概要

簡単ですが、MT3608の概要は以下の通りです。

  • 1.2MHz固定周波数
  • 最大2A
  • なんといっても安い!!

だと思います。頑張ればはんだ付けできるパッケージなのでインダクタとダイオードと何個かの抵抗があれば比較的簡単に使えると思います。

 ここから先はリチウムイオン電池(3.2~4.2V)の出力を5Vに昇圧することを念頭に評価を行いましたので、その内容を紹介したいと思います。

評価

 今回MT3608の評価を行うため、簡単な評価基板を作成しました。その外観写真と回路図を下に示します。回路といってもFBピンが0.6V、出力が5Vとなるように抵抗値を設定するだけです。コンデンサとインダクタの値は仕様書の推奨値をそのまま使用しました。また、評価についてはこちらで紹介している電子負荷を用いて評価を行いました。

評価結果

 まずは電流を固定して入力電圧を変えてみました。負荷が200mA程度であれば入力電圧によらず5Vを出力してくれるようです。一方負荷が600mAまで増えてしまうと4V以上の入力電圧がないと5Vまで昇圧できないようです。これだとリチウムイオン電池ではあまり大きな電流を流すことはできなさそうです。

 そこで次にリチウムイオン電池を使用することを念頭に放電終了電圧(3.2V)~充電直後(4.2V)の場合にどうなるか調べてみました。

 結果が左の図です。充電直後であれば550mAぐらいの出力でも大丈夫そうですが、バッテリーが弱ってくると350mAぐらいの負荷しか駆動できなくなりそうです。

 あれ?2Aまで使えるんじゃなかったっけ?24V入力の時の話かな?

 次にオシロでリップルを見てみました。1MHzで20mVp-pぐらいです。あまり他のICの例を知らないので、これが妥当なのかどうなのかよくわかりません。こんなものでしょうか?

 さらにEnableピンを上下させて電源の立上がり、立下りを見てみました。黄色が入力電圧、赤色が出力電圧です。

 まず見てわかるのはEnableピンを下げても出力が止まるわけではありません。スイッチング動作が止まって電源電圧がそのまま出力されるだけです。黄色(入力)より若干赤色(出力)が下がっているのはダイオードによる電圧降下と思います。

 さて肝心の立ち上がり、立下りですが、T_rise=0.12ms, T_fall=0.18msでした。だから何って感じですが、ご参考まで。。

 ちなみにこれは負荷がついていた時です。負荷がなければT_fallは0.156sまで伸びていました。きっとインダクタの抜け先がないんでしょうね。

インダクタ変更

 評価としてはこのまま終わっても良かったのですが、せっかく基板を作成したのでついでにインダクタの外形サイズ違いについても比較してみました。

 左がCD32という種類で右がCD43というサイズで共に4.7uHのものです。ここまでの評価は大きい方のCD43を使用したものです。

 本来CD**という型番はスミダさんの型番なのかもしれませんが、Aliexpressでこう表記されていたのでここでその表記を踏襲します。

それぞれのスペックは以下の通りです。

  外形

直流抵抗

DCR

飽和電流
CD32 Φ3.5 x 2.1 170mΩ 1.5A
CD43 Φ4.5 x 3.2 94mΩ 1.7A

 実際に付け替えてみるとこんな感じになりました。単品で見ているとずいぶん大きさが違いますが、基板状態で見るとあまり変わった印象はないです。

 さて、実際の評価結果は以下の通りとなりました。すべてCD42と同じ評価を行っています。

 詳細に見れば違うのかもしれませんが、残念ながらあまり大きな差異を感じない結果になりました。飽和電流以下で使っている分にはあまり差がないのかな?

 350mAまでしか出力を出せないので、飽和電流に到達することもなさそうです。ということでこのICを使う時はCD32でよさそうですね。

('22.8.4 更新)

このような記事を書いたこと、評価基板を作ったことなど完全に忘れてしまって新たにMT3608の昇圧モジュールを買ってしまいました。折角なのでこの記事にある自作基板、購入したMT3608基板、それとTPS63020の各基板でどれぐらい出力電流が出せるか測ってみました。こちらに書いています。

 結論を書くとこのページに書いてある管理人自作の基板では0.5Aぐらいまでしか取り出せませんが、購入したMT3608基板では1A以上取り出せています。

 このページではインダクタの飽和電流なんて関係ないと書いているのですが、結局ここが律速して自作基板では0.5Aまでしか出せていないのではないかと今は考えています。

コメント: 1
  • #1

    ブーストコンバータ初心者ですw (金曜日, 06 9月 2024 18:30)

    はじめまして。昨日、初めてこのデバイスを使った基板を発注し、配達されたので実験しているところで、検索するとこちらのページに辿り着きました。詳しい記事を有難うございます。

    ワタクシ、電子電気系なんですが律速という言葉は初めて読んだので調べましたがバケ学関係の言葉のようで、普通は ここが(ボトル)ネックになって ここで(最大値の)制限、リミットになって というような意味のようですね。

    これからも拝見させていただきます。有難うございました。